牛乳と味噌に感じるネット社会

やべぇ、やっちまった。
編集部では、インスタントコーヒーの牛乳割り、…まぁ平たく言えばカフェオレと、こちらもインスタントのみそ汁を編集部で常飲している僕。考え事をしながらお湯を入れたりしていたのが悪いのだろう。濃いめに溶いたインスタントみそ汁に何を思ったか牛乳を足してしまったのだ。牛乳好きの僕は濃いめにいれたコーヒーを牛乳でガッツリ割るのが好きなのだが、どこかで思考回路がインスタントコーヒーを作っている思考回路に置き換わってしまったようなのだ。

どうしようか、これ…。
大きめのマグカップになみなみとたたえられた白濁した生ぬるい液体。そんな白い液体の水面で恥ずかしげに見え隠れするわかめと油揚げ。ベースの液体が白いからだろうワカメがいつもに増して黒々と見え、その周辺には油揚げから出たであろう油もプカプカと浮かんでいる。

流して捨てるか…。
だが、白濁した液体にただよう油揚げを見ていると、夜が明ける前から豆腐作りに励む、豆腐屋のオヤジの姿が脳裏に浮かんできた。それに朝晩の長時間の搾乳に耐える牛のお母さんの姿も見えた。

捨てらんねぇよなぁ…。
そう思った僕はおそるおそるハナをこの未知の液体に近づけると、…うむむ、そう悪い匂いじゃない。というか、なんだかこんな香り嗅いだことがあるような…? リゾットとかシチューとか、海系のカツオだしと肉系のブイヨンの違いはあれど、そう違和感は感じない。失態を横目で見ていた新人コハマがいぶかしそうにこちらを見ているなかで、おそるおそる口に運ぶ。まろやかな牛乳の口当たりと芳醇な味噌の風味が混然一体となって口の中に広がり、味噌と牛乳の香りがハナから抜ける…。

うわぁ、マズ!

 

…と言いそうになった口をつぐむ。劇的なマズさを予想してディフェンスモードで口に流し込んだのだが、我が舌の味蕾の反応は「ありでしょ、コレ!」という意外な結論を導き出したのである。「café au lait(カフェ・オ・レ)」ならぬ「miso au lait」誕生の瞬間である。

 

だが、どうにも自分の味覚が信用ならない(笑)。だって味噌と牛乳だよ? ふつうありえない組み合わせだろ…。自分の味覚が壊れたのか、それとも正常な反応なのか? 僕の一連の行動を見守っていた新人古浜にこの意外な相性を力説してみると、「ホントっスか? うまいっスか? 今度やってみます!」と調子のよさそうな反応だが、その実「こいつ、俺をだまして変なモノを飲ませようとしているな?」と、まったく信用してないようす。自分の原稿に忙しいKJは、深夜の編集部で騒ぎ立てる俺に一瞥をくれて、「うちのジイちゃんが昔やったのを見たことがあります。…いや自分は、ええ。ジイちゃんと同じ年ぐらいになったら…」と、興味なさそうに再び自分の世界に戻っていった。

完全に味覚オンチの変人扱いである。地動説のガリレオ・ガリレイがそうだったように、特異なモノは“特異”というそれだけの理由で排他的な扱いを受け、世の中から拒絶されるモノである。かくいう俺も数分前までそうだったし、今でも自分の味覚に疑問を感じている。このくだらない発見をキチッと誰かに肯定なり否定なりのジャッジをしてほしいところなのだが…、どうやら編集部ではそれが望めないようだ。世の中の人たちはどうなんだろう? ネットでググッてみて驚いた。「牛乳 味噌 相性」で約74万7,000件がヒット。意外にも「味噌と牛乳は意外に相性がいい」というのが通説のようだ。ちょっとクリックしてみれば「牛乳味噌・愛好会」のようなページもあり、それにまつわるレシピも普通に出てくるのである(「牛乳 味噌 レシピ」で調べてみれば、なんとこちらは、約269万件がヒット)。

イヤぁ、世の中同じことを考えるヒマ人がたくさんいるもんである…。というか、こんなくだらないこと(笑)を、かなり偏っているとはいえ日本全国レベルですぐに調べられるインターネットの世界にあらためて驚いた。しかも、全然興味がなかったどころか俺を変人扱いをしたKJに「ネットでみたら、味噌と牛乳は愛称がいいというのが通説で、レシピもけっこうあるんだよ」なんて話したら、評価が手の平を返したように一転。「へぇ〜、そうなんですね」などと今度はかなりの好評価である。オイオイ俺の体を張った“生”の体験談はどうでもいいけど、“ネットでけっこう出てる”というだけでそこまで反応を変えるのかよ? ってか、調べなおすってことは俺の言葉すら信じられないのか? え? やってみるから牛乳をよこせ? …やってみたら、まろやかで意外とうまいだぁ!?
…うむむ。ネット社会恐るべしである。

やたぐわぁ

written by

やたぐわぁ

本名/谷田貝 洋暁。「なるようになるさ」と万事、右から左へと受け流し、悠々自適、お気楽な人生を願うも、世の中はそう甘くない。実際は来る者は拒めず、去る者は追えずの消極的野心家。何事にも楽しみを見いだせるのがウリ(長所なのか? コレ)だが、そのわりに慌てていることが多い。自分自身が怒ることに一番嫌悪感を感じ、人生の大半を笑って過ごすことに成功している、迷える本誌編集長の44歳。

コメント 1件

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    by きんたろす2014/5/21 22:00

    この感性なんともならんわ!
    美味しい料理は、失敗からも生まれます。
    昔は、腐った物を罪人に食わせ、なんとも無ければ、無罪と言う法律も(太古)有ったそうな。
    だから、醗酵食品も発見されました。
    牛乳と出汁はかなり相性良いですよ。
    ヨーロッパの料理の、トマトは(グルタミン酸)醤油・味噌も(グルタミン酸)トマトが、乳製品に合わないの?
    貴方、馬鹿?編集者なの?調べようよ。
    以上。

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