月がきれいですね

十五夜は過ぎてしまいましたが、これからの季節は空気が澄んでくるので月がきれいですよね。ちょうど今はタンデムスタイルの〆切ウィークで思いっきりドタバタしているのですが、食事のために編集部の外に出たときに月がきれいだったりすると「あぁ、きれいだな…」と、ちょっとホッとしたりします。

 

月といえば、文豪の夏目漱石が英語教師をしていたときに「I love you」という言葉を「月がきれいですね」と意訳したというエピソードを知っていますか(実はボク、このエピソードを知ったのは最近です…)。生徒の一人が「I love you」を、「我君を愛す」と訳したところ、「日本人がそんなことを言うか。『月がきれいですね』とでも訳しておきなさい。日本人はそれで伝わる」と教えたと…。まぁこのエピソードは真偽については不明で、一説には後世の創作という説もあるようですが、でもボクは、すごくいい話だなと思うんですよ。

 

だって、欧米人がよく口にする「I love you」と、日本語の「愛しています」という言葉は、明らかにウエイトが違いますもん。確かに、直訳すれば双方は同じ意味ですけど、背負ってる文化が違いますよね。そもそも、日本人が面と向かって「愛しています」って言うこと、ありますかねぇ? まぁ〜、あったとしても人生で何度かじゃないでしょうか。これはやっぱり、欧米人が言うところの「I love you」に釣り合う言葉ではないような気がします。直訳したら確かにそうなんだけど、意訳するとしたら、明らかに違う。

 

じゃあ、日本語だとどんな言葉あたりが相当するのかなぁ…と考えてみると、「月がきれいですね」というのは、非常〜にいいトコ突いてるなぁと思うのですよ。だって、そもそも「一緒に月を見ている」というシチュエーションがもう、お互いに好意があることを思わせますよね。少なくとも、キライな人と一緒には、月をながめないでしょう。

 

一緒に月を見ながら「月がきれいですね」と言う…。たぶん、その言葉のウラにある感情をすべて書くのなら「私はあなたのことが好きです。私は、あなたと一緒にこんなにきれいな月を見ることができて、とても幸せに感じています」という感じじゃないかと思います。ということでやっぱり、「月がきれいですね」という言葉は、欧米における「I love you」に相当する日本語として、かなり正解に近いのじゃないかと…。おそらく夏目漱石は、「日本人なら言葉の意味をそのまま応酬するんじゃなくて、言外の意味をくみ取りなさい」と言いたかったんじゃないかなぁ…なんて思います。それが日本の文化でしょう、と。

 

う〜む、なんだか今日のコラムはすごくロマンチックなことを書いてしまいましたねぇ。でももうボクにはそういう機会がめぐってくることはないんだなぁ〜なんて思うと、なんだかさみしいものがあります。そうだ、タンスタの読者には若い世代も多いだろうから、今度、月がきれいな夜にでも「月がきれいですね」って言ってみてはどうでしょう。まぁ相手の子が夏目漱石のエピソードを知ってるかどうかによっても反応が違うんだろうけど、でもさ。「そうですね。月がきれいですね」っていう返事でもいいじゃないですか。相手の言葉にも言外の意味が含まれているのかもしれない。お互いにドキドキしながら、キレイな月をながめられたら幸せじゃないですか。

 

J-POPとかの世界には「愛してる」って言葉が山ほどあふれてますけど、やっぱり日本人にとって、「愛してる」っていう言葉はそんな軽々しいものじゃないですよね。月を見たり、桜を見たり、きれいな自然の風景の中で「きれいですね」「そうですね」って言う方が、ボクは日本人らしくて粋だと思います。

 

ボクはもう子供3人もいるし、髪の毛も相当にヤバくなってきてるので、夢はタンスタ読者の若い世代に託します。皆さん、健闘を祈る。

マンボサイトー

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マンボサイトー

「マンボ」というニックネームはマンボウ似であることから名付けられ、当初はかなり嫌がっていたものの、最近ではそれほど気にならなくなってきた。ビッグバイクよりも中小排気量 の方が好き、人気車種よりもマイナー車の方が好き、というあまのじゃくな性格の持ち主でもある。

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