粋な買い物がしたい

今月8日、つまり昨日のことだけど、酉の市(とりのいち)に行ってきた。場所は東京は浅草の鷲神社(おおとりじんじゃ)。酉の市とは“11月の酉の日に行なわれる、商売繁盛のための熊手を買ってくるお祭”…といった程度の予備知識はあったものの、実際に行くのは僕も初めて。なので意味とか、しきたりなんかはよくわかっていないのだが、駄菓子や焼きそばの露店が並んでいるとそれだけで楽しくなってしまう。とくに今年は、夏祭りも秋祭りも行けなかったから、缶ビールと日本酒片手に出店のなかを歩くだけで妙にウキウキ大興奮。それにもう11月だからね。参拝者の服装も空気もなんとなく冬っぽくて、初詣みたいな雰囲気だからなのか、おめでたい気分にも自ずと拍車がかかってしまうのだ。

酉の市の主役といったらやっぱり、福を集める縁起物の“熊手”である。何十軒、もしかしたた百軒以上もの熊手の露店がところ狭しと並び、それぞれに特徴のある熊手を大小さまざま売っている。露店に掲げられる大物の熊手には、「石原某」「渡辺某」といった政治家や歌舞伎役者、大手広告会社やテレビ局などといった、誰もが知っているような名前の入ったご成約札が熊手に貼られたりして見ていて飽きない。
「最近あの会社は調子がいいみたいだからねぇ。しかも、この人がごひいきにしているなら、うちもあやかっておくかい?」といったトコロだろうか? そんな名前を見ながら歩くのだけでも十分楽しめるのだが、せっかくここまで来たら、熊手を買ってみたいものである。

客「この熊手は5,000円かい? もうちっとまからないのかい?」
売り子「ようしわかった。4,000円でどうだい?」
客「もう、一声っ!」
売り子「ええい、ヤケだ。3,500円で持ってけドロボー!」
客「あんがとよ! おつりはご祝儀。とっときな!」なんて言いながら5000円札を渡す。…なんてのが、粋な熊手の買い物だと教えてもらったことがあったが、実際に買おうとするとこれがなかなか勇気がいるもんである(笑)。だいたいにして熊手そのものに値札がなく相場もわからない。他のお客を観察していると、ちょっと大きめサイズで福沢諭吉さんが4、5人。特大の熊手になるとすごい厚みの諭吉さんが登場していたからけっこう高い買い物だ。そして、みごと大口成約となれば「繁盛、繁盛、商売繁盛。お手を拝借、よぉおお!」と、お店の人が総出で三本締めをしてくれる。これがなんだか、実に気分がよさそうである。
 
ぜひやってみたいのだが、だいたいにおいて「この熊手いくら?」と聞くのがまったく野暮なようでねぇ…。だけど聞いちゃいました。だって酉の市、初心者だからね。そしたら気持ちよく、相場や飾りの意味を教えてくれる売り子のおっちゃん。どうやら最初は小さい熊手を買って、次の1年で儲かれば、それに合せてサイズを大きくしていくというものらしい。ということで、選んだのは数千円の小さなやつ。だが、一応聞いてみた。

僕「まかるかい?」
売り子「いや、ちっちぇのはまかんねぇ(笑)! でも、これも何かのご縁、来年もよろしくお願いしやす! 繁盛、繁盛、商売繁盛!」と、店員総出の三本締めをやってくれた。

いやぁ、しまらない。まったくしまらない(笑)。来年こそは粋な買い方をしてみたいもんだが、熊手を大きくするにはがっぽり儲けて商売繁盛しなきゃなんねぇなぁ。あ、そうそう。この酉の市。次は11月20日(火)にも開催されるから、商売繁盛させたい人はお近くの鷲神社にぜひ!

やたぐわぁ

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やたぐわぁ

本名/谷田貝 洋暁。「なるようになるさ」と万事、右から左へと受け流し、悠々自適、お気楽な人生を願うも、世の中はそう甘くない。実際は来る者は拒めず、去る者は追えずの消極的野心家。何事にも楽しみを見いだせるのがウリ(長所なのか? コレ)だが、そのわりに慌てていることが多い。自分自身が怒ることに一番嫌悪感を感じ、人生の大半を笑って過ごすことに成功している、迷える本誌編集長の44歳。

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