キング・オブ・深夜バス

実家が四国にあるため、帰省の際は約600kmの距離を移動して家路に向かうことになるのだが、その移動手段によく用いているのが“夜行バス”だ。「バイクじゃないのかよ!」とお叱りを受けそうだけど、この夜行バスというモノ、なかなかどうして魅力的。夜、バスに乗り込めば寝ている間に移動してくれて、翌朝目が覚めたら目的地に着いているという便利さはバイクでは味わえない感覚だ。そんなわけでこのシステムが大変気に入っているのだ。

 

大変気に入ってはいるのだが、それはこれまで何度も夜行バスに揉まれ、学習し、鍛え抜かれた今だからこその感想である。「?」と思う方のために説明すると、とにかく夜行バスというものは初心者にやさしくないのだ。何も知らずに乗り込むと、たいていの人は“眠れない”という困難に直面する。その原因は主に3つ。まずは音。断続的に発せられるバスのエンジン音とタイヤからのロードノイズ。次に光。車内の窓にはすべてカーテンがかけられていて、消灯後の車内は真っ暗になるのだが、そのカーテンの密閉度がなんとも中途半端で、外からの光がチラチラと差し込んでくる。そして最後は姿勢だ。シートをリクライニングすればそれなりに仰向けに近い姿勢を取れるのだが、後ろの座席の人に気をつかっていると、ほぼ直立状態の背もたれで眠るハメになる。人によっては“私はどんなところでも眠れますよ”と言うかもしれないが、普通このような環境ではそうそう熟睡できるものではない。

 

ボクも最初はこれらにやられたものだが、回数をこなせば学習するもので、それ以来アイマスクと耳栓、ネックピロー(首に巻き付けるようにして使うマクラ)を用意し、消灯前に後ろの座席の人にひと言「シート倒してもいいですか…?」と声をかけるだけでずいぶんとラクになることを知り、それ以来はバスの旅が楽しみでしかたなかった。

 

しかし、同僚からこんな話を聞いたとたんに再び夜行バスが恐ろしくなってしまった。

 

「2年前に都内で大雪があっただろ? その日の昼過ぎに車で厚木に向かってたんだけど、道路が大混雑していたんだ。そのとき、ふと渋滞郡に目をやると“東京→博多”と書かれた夜行バスがいたんだよ…。窓ガラスが乗客の吐息で曇り切って真っ白になって…」

 

つまり、おそらく前日の夜に東京を出発したであろう夜行バスが大雪による渋滞に巻き込まれ、半日以上経った昼過ぎの時点でまだ厚木までしか進めていなかったというのだ。しかもそのバスは某旅番組で“キング・オブ・深夜バス”と名付けられたベリーハードモードの車両。その恐ろしさを知る同僚は「バスの中から乗客の苦しむ声が聞こえてくるようだった」と付け加えていた。

 

すっかり古参ぶって夜行バスを攻略した気になっていたボク。今年の年末も帰省を考えているんだけど、もしこんな大渋滞に巻き込まれたら、手持ちのアイマスクやらなんやらじゃ役に立ちそうな気がしない。…うん、今年はバイクで帰省しよう! でも雪は勘弁してほしいかな。

サブロー

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サブロー

ほめられて伸びるタイプを主張するクセに、ほめられることをやらない36歳。出身地である徳島県の一級河川・吉野川の別名“四国三郎”から、このニックネームに命名された。映画やマンガにすぐ影響される悪癖があり『ベストキッド』を観て空手を始めたり、『バリバリ伝説』を読んでCB400SF(当時は大型二輪免許を持っておらずCB750Fに乗れなかった)を買うなどの単純明快な行動が目立つ。

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