個室で感じるニッポンの“おもてなし”

2017年1月も半ばなところで、なんだか新年早々、海外に2回ほど出ばっている。ちなみに新年一発目はタイでこちらはプライベート。そしてつい先日が、ドゥカティのニューモデル、スクランブラー・デザート・スレッドの試乗会でスペイン。…ええ、自慢です(笑)。軽く聞き流して下さい。

 

そんなこんなで、生まれてこのかた30年は海外にはトントコ縁がなかった僕ですが、この10年ぐらいでちょいちょい海外に出て行く機会が増えた。で、まぁそれなりに海外に慣れてきたなぁ…と思ったのがトイレ。というのも海外に行って最初に手間取るのが、お国柄で変わるトイレ事情だからだ。公衆便所に飛び込んだはいいが、大にも関わらず個室の仕切りがなかったり、デフォルトで紙がなかったり、紙はあっても便器に流してはいけなかったり…。日本でも、「洋式便器のヘリでしゃがんではイケマセン!」とか、「前後の向きに注意!」といった内容がイラスト化されて貼ってあったり…。そんなことワザワザ書かなくても誰でもそんなもんわかるだろ? と首を傾げていたが、ここまでお国柄でトイレ事情が違うのだから…と最近は妙に納得しているしだい。

 

で、ハズかしながら海外慣れしたなぁ、と思ったのはトイレの便器脇に設置されているシャワーをうまく使いこなせるようになった瞬間だ。こいつを初めて見たとき、“便器掃除用のノズル”だと本気で思った(笑)。この国の人間はどんだけ飛び散らせるんだ? それで、恥ずかしいから自分で掃除するんだね? と考えたのだ。それこそ同じようなノズルを日本のコンビニ(和便タイプ)などでも見かけるけど、アレは出力的にも、ノズルの形状的にも間違いなく掃除用だしね…。

 

←コイツだっ!

そんなトイレの便器に設置されたシャワーを横目に、紙拭きメインの日本式のトイレ作法を押し通していたんだけど、いろんなところへ行くと、そもそも紙そのものがなかったり、便器まわりがビシャビシャになっていたり…。あぁ、これはケツを洗うモノなのだと気付いた。でもねぇ、やっぱりなんだかハードルが高いわけよ。だって僕らはトイレを“ご不浄”とか“お手洗い”と呼んだりする日本人。やっぱりトイレは、素手で触れようと触れまいと事後に手を洗わなくてはならない“穢れ”の対象には違いない。衛生面だけでなく、精神面でもできれば不特定多数の人間が使うトイレの器具は極力触りたくないというのが多くの日本人の本音だろう。

 

実際僕も、このシャワーを試してみるまで海外渡航数回のインターバルが必要だった。でもタイヤメーカーのピレリさんが新製品発表会でタイに呼んでくれたときに、ホテルであまりにヒマを持て余したので意を決して試してみたさ。最初はもちろん全裸。だって着衣のままでシャワリングテストに失敗したら大惨事。ただでさえ荷物を減らしている海外渡航時に無駄な洗濯物は作りたくないもんだ。でもね、やってみるとコレが意外に合理的。で、その後もいろいろ試しているうちに着衣のままでもこのシャワーが使えるようになってきた。一時期、シャワーのノズルを後ろから回すか? 股の間から回すかで悩んだが、これは人によってお好みのよう。僕は現在、“後ろ回し後方噴射”のスタイルに落ち着いている(なんのこっちゃ)。で、つい先日訪れたタイの公衆便所で、このシャワリングを着衣のままスパッとキレよく行なえて感動してしまった。状況的には、お腹の急降下をともなう火急な場面。紙も持つのも忘れて公園の便所に飛び込んだのだが、紙などなくてもシャワーさえあればラク勝である。それこそケツが乾くまでのしばらくの間、ノズルをしげしげと眺めながら、“俺も海外慣れしたなぁ”なんて悦に入ってしまったというワケである。ただねぇ、どうやら国によっては、おケツを手で洗って清めたりする文化があるらしいんだけど、さすがにそこまでの境地には到達できない、というかやるつもりはない。それはやっぱり僕は日本人。トイレは“ご不浄”の対象だからだ。

 

そんなこんなで、ひとまわりもふたまわりも成長し、ケツの穴のデカイ男になれた気分で海外から帰国するのだが…、帰ってきて必ず思うのは、日本の温水洗浄便座(…ウォシュレットのことね)文化は世界一だってこと。だってボタンをピピッと押すだけで、悩みに悩んだおケツ洗いの儀式が完了してしまうのである。場合によっては近づくだけで便座のフタが開くのである。しかも出てくるのは冷水ではなく人肌の温水ときている! 外国人からすると「どんだけ日本人はトイレで手を使いたくないんだよ?」って感じで狂気の沙汰だろう。一方でそんな過剰なまでのトイレへのこだわりが、日本からの出国手続きをする外国人の荷物に温水洗浄便座のダンボールを持たせているのだろう。トイレを“ご不浄”とし、利用者の手をわずらわせないとする“おもてなし文化”に、「これこそニッポン!」と感動してのお土産なのだろう。つまりは、“お(尻)も手ナシ”なんつって、…おあとがよろしいようで。

やたぐわぁ

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やたぐわぁ

本名/谷田貝 洋暁。「なるようになるさ」と万事、右から左へと受け流し、悠々自適、お気楽な人生を願うも、世の中はそう甘くない。実際は来る者は拒めず、去る者は追えずの消極的野心家。何事にも楽しみを見いだせるのがウリ(長所なのか? コレ)だが、そのわりに慌てていることが多い。自分自身が怒ることに一番嫌悪感を感じ、人生の大半を笑って過ごすことに成功している、迷える本誌編集長の44歳。

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