いずれ来る自動運転社会でオートバイが生き残るために

タンデムスタイル本誌の編集後記でも書いたことなのだが、とてもじゃないが書き切れないし、気持ちがおさまらないので、この場でも書かせてもらおう。先日、ホンダの技術フォーラムが開かれ、そこで現段階のホンダにおけるITSの技術への取り組みが発表された。事後、会場ではホンダのITS技術者の方と懇談する機会を得たのだが、なんだかとてもうれしくなってしまったのである。

そもそも、このITS(アイティーエス)とはIntelligent Transport Systemsの略で、日本語にすれば『高度道路交通システム』。平たくいえば最先端の情報通信技術を使って人と道路と車両とを情報でネットワークすることにより、安全な車社会を構築しようというものだ。より具体的にいえば交通事故、渋滞などといった道路交通問題の解決がその主題。2001年からスタートしており、身近なところでいえばカーナビに渋滞情報などを送るVICS(ビックス)やETCなんかも実はこのITS技術の一環だ。そして現時点でITSが標榜するのが自動運転システム。つまりクルマのドライバーがステアリングやアクセル、ブレーキを操作することなくクルマを走らせる。夢のような話だが、すでに実用化されている衝突回避・被害軽減ブレーキやドライビングアシスト、クルーズコントロールといった技術を見ると、意外に実現は早そうで、実際2020年の実用化を目処に技術開発が進んでいる。

でもね、一人のライダーとしての僕はこの自動運転に対して懐疑的になってしまう。確かに高速道路でクルマの運転をせずに座っているだけで最寄りのインターチェンジに着けたらこんなにラクなことはない。疲れや居眠りといった人為的ミスも減るから事故の発生率も下がるだろう。だが、しかしだ。この自動運転システムが導入される交通社会では、我々の大好きなオートバイという乗り物が入り込む余地がないように思えて仕方がないのだ。

 

想像してほしい。自動運転システムが導入されるとしたら、まずは信号も交差点もない高速道路かそれに準じたところになるだろう。ただそんな場所だって自動運転のクルマとオートバイが一緒に走れるものなのだろうか? クルマとオートバイでは加速の仕方はもちろん、旋回、車線変更といった場合の動きがまったく違う。バイクの方がはるかに機動性が高い俊敏な乗り物なのだ。だからこそ僕らはバイクが好きなワケだけど、自動運転で巡航するクルマの前に機動性の高いオートバイがスッと車線変更したらどうなるだろう? どの時点で衝突回避・被害軽減ブレーキが作動するのだろうか? 実際、技術者の方によると、自動運転で巡航するクルマと機動性の高いバイクが同じ場所で、お互いを干渉せずスムーズに走ることはかなり難しいことらしい。

そりゃそうだよね。根本の動き方が違うんだから、そうとう難しいことだろう。ではここでみなさんに質問です。東京オリンピックが行なわれる2020年。世界のどこかで本当に自動運転化が実用化されたら、その後、オートバイという乗り物の存在はどうなるのだろう?

共存できるのか? それとも交通社会からのオートバイ排除されるのか? 僕は以前から、後者の動きが世の中にあるような気がしてならなかった。実際、ある四輪メーカーの未来の交通社会図にはオートバイと思われる乗り物がいっさい出て来ない。一番近いのは超小型モビリティと呼ばれる乗り物だ。今いるバイク乗りにはぜんぶこれに乗れというのだろうか? そんなことをずっと考えてきたなかで開かれたITS技術フォーラムである。ぶしつけながら、僕は技術者に一番聞きたかった質問をぶつけてきた。

「ITS技術の行き着く先は自動運転だと思いますが、そのときに我々オートバイが交通社会から排除される可能性はありますか?」ってね。ショックだったが、現段階においてその可能性は残念ながらあるそうだ。だが、こう答えてもいただけた。

「そうならないためにわれわれはITSに取り組んでいるんです。ホンダは2002年の初期段階からITSの技術開発に参画しているんです」。加えて『絶対にITS技術でオートバイを車社会から排除することはあってはならない』という特命も受けているという。実に頼もしい言葉である。

世の中が快適で安全になるのはいい。大賛成だ。だがその代償としてオートバイを排除する動きへと社会がシフトするとしたら、話は別だ。絶対に阻止せねばとも思う。僕は死ぬまで、そして次の世代にもこのすばらしいオートバイという乗り物を残しておきたいと思うのだ。

やたぐわぁ

written by

やたぐわぁ

本名/谷田貝 洋暁。「なるようになるさ」と万事、右から左へと受け流し、悠々自適、お気楽な人生を願うも、世の中はそう甘くない。実際は来る者は拒めず、去る者は追えずの消極的野心家。何事にも楽しみを見いだせるのがウリ(長所なのか? コレ)だが、そのわりに慌てていることが多い。自分自身が怒ることに一番嫌悪感を感じ、人生の大半を笑って過ごすことに成功している、迷える本誌編集長の44歳。

コメント 2件

  • アバター

    by こくうぞう2014/4/23 00:17

    ITS技術とバイクの共存共栄については私も行く末を案じていましたが、ほぅ、ホンダさんはそのような特命を帯びていらっしゃったのですね。
    日本ではどうしても、4輪と2輪ではメーカーもユーザーも2輪のほうが圧倒的にマイノリティで、声は消されがち。多勢に無勢で、どれだけ優位性や有効性・有用性を声高に叫んでも、マイノリティの声が届くことが少ない。
    ITSなんて小難しい話まで及ばずとも、普段の何気ない会話にしたって、4輪しか知らない人にしてみれば2輪の事は「だってわからないもの。」「2輪って危ないでしょ?」だけで話が終わりになっちゃうことがしばしば。

    スマートモビリティはパッと見、おもしろそうなんだけど・・・「ITSの中の一つ」という見方をしちゃうと、どうしても普及には躊躇しちゃう。
    長いものには巻かれたくないですが・・・。ホンダさんには是非、頑張ってほしいし、他の2輪メーカーも、追随して頑張ってほしい。
    もちろん、私たちユーザーも、意識を高く持ちたいものです。

  • アバター

    by きんたろす2014/5/5 22:19

    はっきり言って、マスコミのレベルの低さを実感しました。
    自動システムが導入されて、信号が無くなる訳ないでしょう。
    グローバル展開の自動車が、先進国の事情だけで変化する訳無いし。
    インフラが変わる訳無い。
    国家予算の総額と、そのシステム構築の金額試算しました?
    あんた馬鹿ですか?
    ホンダは、アメリカで、歩行者に対する実証実験開始してますよ?
    ちゃんと、裏取って、発言していますか?

    二輪が生き残れるか?は、事故の状況でしょう。
    現在の法律では、二輪の存続は難しいと思います。
    僕は同じ2輪乗りとして、悲しいです。
    四輪がいくら、気を使い運転しても、2輪の不注意・驕りで事故を起こされたら・・。
    しかも、罪をこちらが全て被るなら、こんな物この世から消えて無くなれ、そう思いますよ。
    もう少し、現実を直視し、コラム書きましょう。
    以上。

このコラムにあなたのコメントをどうぞ

この記事が気に入ったら
いいね!とフォローしよう

タンデムスタイルの最新の情報をお届けします