2千万円のバイク! RC213V-Sに乗ってきました

いやぁ、乗っちまいました! ホンダの超高額マシンRC213V-S! さすがに初級、中級向けを企画の骨子とするタンデムスタイル本誌ではそのインプレッション記事を掲載することは…たぶん無い(笑)と思うので、この場でその興奮が覚める前に試乗記を書いてしまおう!

このときはRC213V-Sを北海道の鷹栖テストコースでインプレッション

 

RC213V-Sのメーターまわり
なんとRC213V-Sが2台も用意されていたのだ!

さて、RC213V-S、ナニがスゴイっていうとまず値段だ。あまりに高すぎて正確な値段も調べる気にならないが、ざっと二千万円(税抜き)。あまりの金額に漢字化してみたが、バイクどころかマンションとか中古物件の庭付き一戸建てが買えてしまうじゃないか! でもってその消費税だけで超人気のCRF1000L Ⅼアフリカツインが買えてオツリがくるという恐るべきオートバイである。なんでこんなに高いのか? いいパーツを使っているのはもちろんなんだけど、“ほぼ手作り”ってのが、その値段の理由。テールカウルなんかは、1日に1個しか生産できないし、1台1台職人が組み上げているのだとか、それで生産台数も限られているわけなんですねぇ。

 

RC213V-Sのテールカウル
これがその、日産1個というカーボン製のテールカウル。つまり中に金属製のフレームがなく、カーボンのシートがそのままモノコックフレームになっているというのだ

 

で、乗ったのはこの梅雨空広がるこの時期恒例のホンダ・二輪雑誌編集長ミーティング。通称:編集長ツーリングと呼ばれるイベントにおいてのこと。ちょっと長々と説明するとこの編集長ツーリングとは、主要オートバイ雑誌の編集長を集めて行われる1泊2日のツーリングイベントで、今年で26回目。普段いそがしくてバイクに乗れないであろう編集長(僕は違うけどね!)ミーティングの名目で引っぱり出してやろう、と始まったらしく、ロケに影響がないよう梅雨のこの時期に行なわれるというワケである。スゴいのは、高級旅館でのアゴ、アシ、マクラは当たり前。参加者が乗るバイク、つまり70台近いマシンが現地で僕らをお出迎え。ヘルメット片手に「今日はちょっとこれに乗ろうかな?」なんて感じのよりどりみどりで走り出す。当然、持ってきたけど誰にも乗られないバイクもあるし、事前に「1日目はコレとコレで、2日目はコレ!」なんて決められることもない。なんたる贅沢! おかげで大名旅行という言葉を聞くと僕はこの編集長ツーリングが真っ先に頭に浮かぶようになってしまった。「どうせやるなら徹底的に! 中途半端が一番印象に残らない!」ということだろう。

 

 

今回の開催場所は、石川県の能登半島。和倉温泉を起点に、砂浜が県道になっている「なぎさドライブウェイ」から、「千枚田」とほぼ半島を一周するようなコースが用意され、総勢60名のライダーがそろいのライディングジャケットで千鳥走行。休憩ポイントでは「次は、それに乗りたいので交換しません? こっちはアフリカツインのDCTです」なんて感じでバイクを交換を行ないながら旅は進むのだが、最初の選択をミスると交換相手が見つからなかったりするので、最初のマシンをチョイスにはわらしべ長者的なスキルも必要だ(笑)。参加者は全員業界人だからね、ニューモデルが人気になるのは当然なのだが、そんな中にRC213Ⅴ‐Sが混ぜられたのである。しかも、なんと2台! 合計4千万円だっ!! カードで言えば最強のジョーカーである。当然、暴動が起きないよう、ホンダさんから試乗権にはくじ引きという公平性が与えられたが、その結果に僕らは一喜一憂。

 

 

もちろん、当たりたいのは山々なのだが、当たればなんせ不動産のような2千万円の札束…じゃなかった、バイクに乗ることになる。もちろん超高額だからといって立ちゴケしない機能が付いているワケではないし、衝突回避の機能もない。むしろ塗装が軟らかいらしくてキズもつきやすい(笑)。…つまり、ナニかあればガリッとすぐに価値を失う2千万円である。まぁ、保険も入っているだろうからイキナリ借金王になることはないだろうが、一生どころか末代までホンダさんに頭が上がらなくなるのは間違いない。そして二輪各誌の編集長にその一部始終を目撃されるワケだから、「あ~、RC213Ⅴ‐Sをコカした人ね~」なんて感じのレッテルが、当分…というか多分一生ついてまわる(笑)。少なくとも名刺交換のときにココロの中で、「こいつが!(クスッ)」と思われる人生になることは確定である。そんな途方もないリスクを承知で、手を挙げましたよ僕も。で、みごと挑戦権を手に入れたというワケ。ちなみ我が社からは数人の編集長がこのツーリングに参加しているのだが、本誌前編集長・マンボサイトー改め『風まかせ』編集長・斎藤直人は、試乗1発目のクジを引き当て、砂浜の県道「なぎさドライブウェイ」で走ることになった。まぁ、本人はあまりのリスクの高さに愕然としていた(笑)。その間、僕はアフリカツインでルンルンしてましたけどね。

 

なぎさのRC213V-S
なんとRC213V-Sでなぎさドライブウェイに突入〜! トラクションコントロールの効き具合が大いに楽しめたに違いない(笑)。ちなみに僕はこの列の最後尾あたりにいるハズ。…もちろん波打ち際や砂だまりをCRF1000Lアフリカツインで遊ぶため。オフロード専門誌のガルルの編集長とDCTとMTのマシンをとっかえひっかえ遊んでいた。「誰だ! こんなに汚したのは!」と事後にメカニックが叫んだとか叫ばなかったとか…

 

さて、RC213V-Sである。実は僕、試乗は2回目。前回はフルパワーのヨーロッパ仕様をクローズド環境で乗ったのだが、今回はナンバーの付いた国内仕様でパワーは70馬力と半分以下に抑えられているらしい…。とはいえ恐る恐るガソリンスタンドから走り出る。“ハンドル切れ角が少ねぇ”というのがまたがっての第一印象。それに純血のレーサーだから足つきもよくはないし、ハンドルも低い、ステップ位置も高くて後ろ目だね…。だが、想像していたよりポジションはキツくない。

 

RC213V-Sのステップ
ステップはアルミ削り出しなのだが、とにかく薄いのである

RC213V-Sのサイドカウルの留め具

「さぁ行こう。2千万円だっ!」と、誰に言い聞かせるワケでもなく、ヘルメットの中でつぶやきながらアクセルを開ける。試乗に許された時間は約15〜20分。まぁ、少ないような気もするが、このプレッシャーの中でキチンと試乗するにはちょうどいい時間じゃないだろうか?

 

エンジンは、意外にも従順である。トラコン、パワーデリバリーなど、それぞれ8段階でいろいろ好みの組み合わせで変えられるようだが、今回の試乗にそんなセッティングを変更している時間はない。デフォルトで用意された、モード5段階切り替えのみに集中。当然、一番安心感のあるモード5でスタートし、モード3、モード1と順々にハードルを上げる。…が思ったほど乗りにくくない、というかむしろ逆。レーサーポジションであることをのぞけば、変なクセはいっさいないから、むしろとっても扱いやすい。値段のハードルさえなければ初心者にもオススメ!と言ってしまえるほどである。これで変なプレッシャーがなければかなり遊べるんだけどなぁ…、な~んて調子こいて、アクセルを開け始めたらいきなりレブリミットにブチ当たる。国内仕様はレッドゾーンの全然手前の回転数で出力がカットされる。「このエンジンはここからが…」なんて、感じの気分が盛り上がってきたところ…、水戸黄門で言えばご隠居が印籠に手を伸ばしたその瞬間にパワーがカットされるから(ナンのこっちゃ?)、こればっかりはかなり不完全燃焼気味。こいつの住処はやはりサーキットということ。フルパワーで乗りたいならきちっとナンバーを落としてクローズドで、「スポーツ・キット」を組み込めということだ。…あ、もちろん公道で流すぶんには不自由ないパワーであることを付け加えておこう。

 

RC213V-Sのメーターはカラー液晶
車体の制御を行なうためのIMUセンサーはボッシュ製の5軸センサーを採用しているとか

 

さて、そんなスンドメ的エンジン出力はともかく、車体がものすごいのがこのRC213Ⅴ-S。前回のヨーロッパ仕様での試乗でも感じたことだが、ほかのバイクに比べて異次元の接地感があり、ものすごくグリップしているように感じるのだ。わかりやすく説明すると、日常生活でもぬれたマンホールの上を歩いたり、小ジャリの浮いた場所を歩くときは、「うわぁ、すべりそうだなぁ」なんてことは誰でも感じるだろうし、そう感じるからこそ、慎重に歩くものだ。それはバイクも同じこと。ライダーはタイヤのグリップを感じながらバイクをコントロールする。これは意識的にせよ、無意識にせよ、初心者からエキスパートまで変わらない。“ジャリ道は怖い…“と思えるライダーはすでにその接地感の変化を感じているからそう思うのだ。

 

さて、話が難しくなってきたのでここまでの話をまとめると、グリップ力は強く、接地感は変化しないほどライダーは安心して走れる。ここまではいいかな? でもね、バイクは曲がったり、加速したり、ブレーキをかけたりすると、路面への荷重のかかり具合が変化する。もちろんグリップのいい路面から濡れたマンホールなどに乗り上げた場合も同じだ。こうなると接地感が急に変化することになるから、とたんにライダーは不安になり運転もナーバスになる。逆に、そこが変わらなければライダーは安心してアクセルを開けられるし、バイクを気持ちよく寝かせられるというワケなのだ。

 

前回の試乗では、直線と大きなコーナーだけで、この接地感の高さの理由を考察する時間はなかったけど、今回は幸か不幸か公道である。右折左折に高速コーナー、発信停止に横断歩道のゼブラにマンホール。このあたりの挙動を試し放題である。短い時間ながらもいろいろやって、この異様に高い接地感を説明する理由がひとつだけ見付かった。バイクの姿勢がすんごく変わりにくいのだ。通常、バイクという乗りモノは、アクセルを開ければタイヤに駆動がかかることで、フロントタイヤを浮かそうとする力がかかるものだし、フロントブレーキをかければ前につんのめろうとする力が発生する。なんだこのクルマはそれが極端に少ない。いや、ないとも言っていい。だから、コーナリングでアクセルを開けてもフロントタイヤの接地感がなくなることがないし、フロントブレーキをかけながらコーナリングしてもリヤタイヤが逃げる気がしない。

 

え? どうやってそうしているかって? それは僕にはわからない(笑)。電子制御サスペンションでも付いていれば納得なのだが、どうやらこのバイクには電子制御サスペンションが付いてない。このあたりはそっち方面に詳しい雑誌があるのでそちらのインプレッションなり、技術解説を読んでいただいた方が手っ取り早いだろう。昨晩、懇親会の席で車体系の開発の方に水を向けてみたけど「ディメンションですよ。CBR600RRとほぼ一緒ですよ」と言うだけではぐらかされてしまったが、どうもそれだけでは説明できないことはサーキット系の車両にウトイ僕でもわかる。マシンの姿勢制御をブレーキ制御と出力コントロールの方でやっているのだろうか…?

 

それになぜかこのRC213V-Sの試乗時に思い出すのは、今回も前回もBMWのボクサーツインのツアラーに初めて乗ったときのことだ。ボクサーツインによる低重心化と、BMW独自の前後のサスペンション機構、この組み合わせが作り出すなんだか路面に張り付いて滑空するような異質な乗り味。語弊は多分にあるが、あの張り付き感をとんでもなく高い次元まで突き詰めたような感覚といえばいいだろうか? しかも、コチラの車体は圧倒的に軽く、運動性も以上に高いのである。

 

いやぁ、おかげで何をやってもコケる気がしないんだわ(笑)。わずかな試乗時間ではあったし、天候の急変でウエット路面も走ることになったが、すっかりコイツが2千万円であることを忘れられていた。…いや、忘れそうになった(笑)。ええ、もちろん無事に給油してお返ししましたので「ミスター2千万!」とか呼ばれることもないぜっ!

 

RC213V-Sのアンダーブラケット
アンダーブラケットの下側にはキーシリンダーが備え付けられており、ハンドルロックに対応。ナンバー付車両として売るからにはハンドルロック機構は法的に付けなければならないのだ。使いにくそう…というか、このマシンを駐輪場に放置するような人はいないんだろうな
やたぐわぁ

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やたぐわぁ

本名/谷田貝 洋暁。「なるようになるさ」と万事、右から左へと受け流し、悠々自適、お気楽な人生を願うも、世の中はそう甘くない。実際は来る者は拒めず、去る者は追えずの消極的野心家。何事にも楽しみを見いだせるのがウリ(長所なのか? コレ)だが、そのわりに慌てていることが多い。自分自身が怒ることに一番嫌悪感を感じ、人生の大半を笑って過ごすことに成功している、迷える本誌編集長の44歳。

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