フロント2輪が産む高い安心感がトリシティの魅力

フロント2輪ながら通常のバイクと同じように車体を傾けて曲がることのできるリーニング・マルチ・ホイール(LMW)が特徴となる3輪モデル、トリシティ。今回紹介する155のほかに125(124㎤)と300(292㎤)がある。
フロント2輪となるため、当然ながら同排気量クラスの2輪スクーターと比べればフロントが重く、それだけ押し歩く際に重く感じるのは致し方のないこと。とはいえ、成人男子であれば重すぎるという印象にはならないはずだ。さらに走り出してしまえば、重いと感じることはまずない。押し歩きでは重さがデメリットになってしまうけれど、逆にメリットもある。極低速でも安定しているし、強風の中を高速走行しても風の影響をほとんど感じることなくつき進んでくれるのだ。

そして何より冒頭で記したとおり、スイングするフロント2輪によって不安なく車体を倒し込んでいけるのがトリシティの特徴であり魅力だ。バイクならではの車体を傾けて曲がる感覚を経験値の少ないライダーでも簡単に味わうことができるのだ。よくバイクに乗り始めたばかりの人から「車体を傾けることが怖い」と聞くけれど、トリシティであればフロントの接地感がしっかりとあるのと、車体を倒し込んだ際にそのまま倒れ込んでいくような感覚がないので、車体を傾けることへの不安が軽減されるのだ。
さらに、フロント2輪のおかげで、すべりやすいところでもフロントが流れて即転倒ということがまず起こらない安心感もある。これまでに雨天時のオフロードコースを走ったり、あえて雨天のコーナリング中にマンホールの上を通過したこともあったけれど、フロントがすべって不安になるようなことはなかった。
高効率燃焼、高い冷却性、ロス低減の3点にフォーカスして走りの楽しさと燃費・環境性能の両立を高次元で具現化する設計思想“BLUE CORE(ブルーコア)”のもと作られたエンジンは、街中で心地いい加速感を足合わせてくれるし、排気量が155㎤なので高速道路を走ることができ、100㎞/hでの巡航も十分に可能だ。そう、安心して操れる車体との組み合わせで、走らせること自体がとても楽しいモデルなのだ。
さらに現行モデルでは“Yamaha Motorcycle Connect(Y-Connect)”アプリとコネクトすることで、車体の情報をスマホで確認できるだけでなく、電話やSNSの着信をメーターで把握できる時代に合った利便性も持ち合わせている。
時代性というところでは、今回試乗したマットライトグリーンの車体色も目を引くポイントだろう。ヤマハによると、“静寂の中にある奥深さ”をコンセプトに、日本の侘び寂びをも連想させる色調であり、日常に馴染み幅広いシーンで受け入れられるカラーとして設定したとのこと。男女問わず人気がありそうなカラーだ。
ここからは、このインプレッションシリーズおなじみの低身長女性ライダーの声をお届けする。

ハンドリングの軽快さと安定感のバランスが絶妙

バイクに乗るようになったのは2016年。当時車種の知識があまりなかったのだが、フロントタイヤが2つ付いている謎のバイクを公道で見かけた時の衝撃は、今でも何となく覚えている。そしてバイクメディアにたずさわって数年、今回ようやくその3輪モデル、トリシティに乗る機会を得た。

仕組みをあまり理解しておらず、まずは自立するのか否かという点が気になったが、ご存じの方も多いと思うが自立はしない”。なので、当然だが足を着いて停止するという動作が必要だ。

またがってみると、フロントまわりの景観にかなりのボリューム感がありそして重さを感じた。走り出す前は“ハンドリングがモッタリしているのでは?”という印象だった。実際走り出すためにアクセルをひねってみたら初速は穏やかで、低速時のフラつきをほぼ感じない。初の右折時、ハンドリングはいかほどか?と構えていたのだが、「あれ? 思ってたのと違う」とヘルメットの中で独り言を発していた。またがって軽くハンドルを切ってみたりした時は、前述したとおり“モッタリ感”があると思っていたのだけど、走り出すと180度イメージが変わり、思っていた以上に軽快なハンドリングでコーナーをスパッと曲がっていける。そして安定感があるから車体をしっかり傾けてコーナーへ進入しても怖くない! 普通のバイクのヒラヒラ感とは異なる、ハンドリングの軽快さと安定感のバランスが絶妙だった。また片側一車線ほどの幅しかない場所でのUターンも試してみたが、車体をほんの少し傾けてハンドルをしっかりめに切れば旋回もかなり余裕があった。Uターンはあまり得意ではないのだけど、これならどこでもUターンできそうだ。

唯一気になったのが取りまわし。フロントが二輪になっていることで、通常のバイクよりフロントの重量配分が大きいため、二輪車と同じ取りまわし方ではスムーズにはいかないので、その点は留意したい。ただ、シートは低めで、身長155㎝でも両足のツマ先は接地し、またがった状態であればエンジンをかけずとも取りまわすことは可能だ。

情報を読み取りやすいメーター。インジケーターのAマークは、アイドリングストップが起動している印で、停止とほぼ同時にエンジンは停止し、アクセルをオン時は絶妙な間の後発信する。

左ハンドルスイッチボックスの下側に坂道などで車体を停める際に重宝するパーキングブレーキのレバーがある。右ハンドルスイッチボックスで、アイドリングストップのオン・オフが可能。

ある程度の段差であれば片側のホイールのみ持ち上がって車体は安定している。そのため自宅の段差のある狭い場所に停めることができ、意外と場所を取らずに保管することも可能なのだ。

現行モデルはスマートキーを採用しているので、カギを差し込んだり引き抜くわずらわしさがない。また、車両のバッテリー電圧が低下しているなどでスマートキーが作動しない時もシートを開けられるメカニカルキーが付属する。

ハンドル右下にスマートフォンや薄手のグローブを収納できるフタ付きのフロントボックスがあり、中に12V1Aの電源ソケットを装備。ボックスの左、車体中央にはコンビニフックがある。

センタートンネルのないステップボードなので、足を高く上げることなく乗降車ができる。レーシーな形状のタンデムステップは必要な時にプッシュすると飛び出し、押し込むと収納できる。

一体型のシートは、途中に緩やかでお尻を包む感じの段差が設けられていて、ライダーはポジションを安定させやすい。2種類の表皮が使われていて、その結合部の白いステッチが質感を高めている。

シート下トランクの容量は約23.5Lで、形状によるけれどヘルメットが収納可能だ。その前にガソリンの給油口がある。シートのヒンジ部分左右にはヘルメットホルダーが装備されている。

 

POSITION & FOOTHOLD

両足を下ろしてカカトまでベタ着きのうえヒザにも余裕がある。足を置く場所の自由度はほとんどなく、乗車姿勢はヒザをほぼ直角に曲げるイスに座っているようなスタイル。座る位置には自由度があり、ハンドルまでも距離があって窮屈感はない。身長170cm/体重70kg

シートの後方にお尻をすえた状態で両足のツマ先が着き、シートの最前部まで出れば土踏まず手前くらいまで接地するため足つき性が悪いとは感じない。最後部に座ると段差でお尻がホールドされて加減速時にお尻がズレることもない。座り心地もいい。ハンドルまでの距離もほどよく小柄なライダーでもなじみやすいポジションだ。身長155cm/体重46kg

 

SPECIFICATIONS

●全長×全幅×全高:1,995×750×1,215(㎜)●軸間距離:1,410㎜●シート高:770㎜●車両重量:172kg●エンジン種類・排気量:水冷4ストロークOHC4バルブ単気筒・155㎤●最高出力:11kW(15ps)/8,000rpm●最大トルク:14N・m(1.4kgf・m)/6,500rpm●燃料タンク容量:7.2L ●燃費(WMTC):42.1㎞/L●タイヤサイズ:F=90/80-14・R=130/70-13●価格:56万6,500円

TRICITY155・ヤマハ製品ページ

CONTACT

問い合わせ先
ヤマハ発動機カスタマーコミュニケーションセンター
電話番号
0120-090-819
URL
https://www.yamaha-motor.co.jp/mc

 

 

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