グランツーリスモの枠に収まらないスポーツモデル“TRACER9GT+Y-AMT”
最近では各社とも、アダプティブクルーズコントロールやクイックシフターをはじめとする電子制御をふんだんに盛り込んで、ラクかつ安全に長距離を走れるモデルをラインナップに加えている。ヤマハにおいては今回紹介するトレーサー9GT+Y-AMTがそんな快適仕様車だ。オートマチックモードだったりアダプティブクルーズコントロールといった最先端の電子制御によるシステムが採用されているのが魅力だけれど、一番の特徴は電子制御テンコ盛りモデルの中で車体がコンパクトなところ。さらに、長距離をラクに走り切る快適さに加えて、スポーティな走りを楽しめる軽快さがあるのもいい。
車体を右に左に切り返す際は、とても車重が230㎏オーバーとは思えない軽さで、マニュアル時のライディングモードでもっともパワフルな加速を見せるスポーツと合わせれば、かなりキビキビとした走りができる。ちなみにYRC(Yamaha Ride Control)モードは、マニュアル時がスポーツ、ストリート(スポーツに比べて若干レスポンスがマイルドな印象)、レイン(ストリートよりさらにマイルド。とはいいえ街中を普通に走るぶんにはもたつく印象はない)の3モードに加えて、乗り手の好みに合わせて電子制御の介入度を選択できるカスタムが2つある。オートマチック時は、DとD+(Dよりスポーツ指向が強い)の2種類が選択でき、いずれもシフトチェンジボタンを押せばギヤチェンジができるので、D/D+モードの変速タイミングに不満があれば自分で操作すればいい。そんなわけで、ツーリング途中のワインディングでバイクを操る楽しさを満喫できるだろうし、街中を走ること自体も楽しいはずだ。
高速移動はアダプティブクルーズコントロールのおかげでかなりラクになるし、高速走行中でも高さ調整できる電動スクリーンによって、走行風の当たり具合を調整できるのもいい。ちなみにもっとも高い位置にすれば上半身は走行風の影響から解放される。
名前にGTと付いているので、グランツーリスモとして認識する人が多いと思うけれど、乗ってみたら、チョイ乗りからロングツーリングまで幅広いシーンで楽しめる懐の深いスポーツモデルという印象であった。
また、先にちょっと触れたけれどトラクションコントロール、スライドコントロール、リフトコントロール、エンジンブレーキの介入度を変えられたりと細かなセッティングもでき、そのセッティングした状態を記憶させられるので、カスタムパーツを買うことなく簡単に自分好みの車体にセットアップできる魅力があることも付け加えておこう。
続いて、小柄な女性ライダー目線でのインプレッションをお届けしよう。
“重い・高い”の先入観を覆す一台
車両重量232㎏という数値を見たとき、まず“本当に私でも乗れるのか?”と不安になった。普段乗っているのはハスクバーナの701スーパーモトで、シート高は890㎜。トレーサー9 GT+ Y-AMTはローポジションで845㎜、ハイポジションで860㎜と、701SMとくらべれば数値上は若干低め。しかし、筆者の身長は155㎝。正直なところ、足つきに関してはどちらにしても高いことには変わらない。
とはいえ、実際にまたがって車体を起こしてみると、予想していたよりかは“軽い”と感じた。足のツマ先で地面を地面をとらえつつ、左太モモと腕に力を入れて起こす。いつもなら直立するまでに時間がかかるが、今回はすっと起き上がり、すぐに足の入れ替えもできた。低身長の自分にとっては、このシート高と重量は“乗れない“ではなく“許容できる”レベルだった。
停止時には工夫も必要だ。両足は着かず、片足のツマ先でバランスを取るため、フロントブレーキをかけすぎて前につんのめらないように細心の注意がいる。また、足を下ろした時に左のステップがふくらはぎ付近にくるため、早く足を出すと向うズネを擦ったり、パンツの裾が引っかかることもある。完全停止のタイミングで足を出すか、少し外側に足を出すことで安定した着地が可能になった。
そして走り出し。まずはATモードを選択。クラッチレバーがないこともあって、発進はとてもスムーズ。エンストの心配もなく、アクセル操作に集中できる。速度を上げるにつれて、Dモードでは落ち着いたタイミングで変速してくれる印象。ゆったり走るにはちょうどいいが、流れの早い幹線道路で加速したい時は少しもたつく印象も。その場合はD+モードに切り替えると、高めの回転数でシフトアップするようになり、グッと加速する。合流や追い越しもスムーズで、とくにスポーティに走りたい時はD+モードが好みだ。
MTモードに切り替えると、左手側の人差し指と親指でシフト操作が可能に。これが驚くほど自然で、慣れると本当に快適。発進はATと同じくスムーズで、そこから自分の好きなタイミングでシフトアップ・ダウンできる。なお、発進直後などのごく低速時にはシフトアップが効かないこともあったが、それも車両の安全制御によるものだろう。
気になる点としては、2速→1速のシフトダウン時に少しショックが強めなこと。停止直前に自動で1速へと切り替わるタイミングでは、わずかに車体が揺れる印象もあったが、扱いに慣れることで違和感は減っていくと感じた。渋滞時のようなごく低速走行では、半クラ操作が不要な分アクセルとリヤブレーキに集中でき、左手の疲れが大幅に軽減されたのは大きなメリットだ。
車重があるぶん、コーナリングでは“重たさ”を覚悟していたが、それは完全な杞憂だった。想像以上にヒラヒラと曲がり、バンク時の安定感も抜群。むしろ安心してしっかり倒せる楽しさがあり、ここ最近乗ったバイクの中でもトップクラスの快適さだった。
また、Uターン時も非常にラク。クラッチ操作を気にせず、アクセルとリヤブレーキでじわっと回れる。取り回しが心配だった大型モデルにも関わらず、思いのほかスムーズに小回りが利く。この快適さと走りのバランス感は、まさに“ギャップ萌え”と言いたくなる魅力だ。
たしかに、足つきや重量といった低身長ライダーにとってのハンデはある。しかし、それを補って余りある快適装備と電子制御の走行サポートがある。そして何より“走る楽しさ”がある。今度はこのバイクでロングツーリングに出かけたい――そう素直に思えた一台だった。
POSITION & FOOTHOLD
Low
High
シートを交換することなく15㎜の高さ変更が可能。低い方だと両足下ろしてカカトまでベタ着き、高い方はカカトが軽く浮く程度。ポジション的な差は感じられなかった。ポジションは上体の起きたラクな姿勢から前傾したりコーナーで体をオフセットしたりと自在にポジション移行ができる。身長170cm/体重70kg
シートはLowの状態で今回は試乗した。足つきは片足のツマ先がやっと設置するほどで、もう片方の足は足首を伸ばして届きそうで届かない。シートは比較的細身で、足は真下に下すことができるため足の入れ替えはしやすい。ただし左足は停止時にステップが干渉するので、注意が必要だ。ハンドルまでの距離は低身長なライダーにとっては少し遠く、幅広く感じるかもしれない。ただしライディングには影響はない。
SPECIFICATIONS
●全長×全幅×全高:2,175×900×1,440/1,530(㎜)※スクリーン最低位/最高位●軸間距離:1,500㎜●シート高:845/860㎜※Low/High ●車両重量:232kg●エンジン種類・排気量:水冷4ストローク直列3気筒 DOHC・888 cm³ ●最高出力:88
kW(120ps)/10,000rpm●最大トルク:93N・m(9.5kgf・m)/7,000rpm●燃料タンク容量:19L ●燃費(WMTC):21.1㎞/L●タイヤサイズ:F=120/70-17・R=180/55-17●価格:198万円
CONTACT
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