その道のプロ

引っ越しをしようと思い、電化製品などをいろいろ物色したり、リフォームなどで見積もりをとってみたりしているのだが、その先々で出会う担当さんのキャラクターや対応がさまざまでおもしろい。情熱的だがとにかく先走る人、ただ単に機械的に仕事をこなす人。なかには自分の仕事がなんなのかイマイチわかってなさそうな人もいたりもするのだが…。現在、一番好印象なのは、町田にある大型電化製品量販店の冷蔵庫コーナーで出会った店員さんだ。

正直、そのフロアに行くまでは「そういや、冷蔵庫もそろそろ新調したいねぇ。ついでに見ておくか?」なんて、完全に冷やかしモードだったのだが…、10分後には「え? メーカーによっていろいろ得意な分野があって、この東芝は野菜室にものすごく力を入れていて鮮度が落ちにくい? フムフム。でこっちの三菱は冷凍庫に強くて、シャープはプラズマクラスターとやらが出ていて冷蔵庫内の消臭・除菌しているというわけですな?」と、完全に営業担当さんの作り出す「すばらしき冷蔵庫ワールド」に引き込まれ、話がおもしろくて仕方がない。いやはや、恐ろしく勉強しているのだろう、こちらの質問に対して歯切れよく出てくる解説は聞いていて心地いいし、見た目やカタログでは伝わらない工夫や特徴も、必要とあらばその都度わかりやすく教えてくれる。
まったく買う気も、興味すらなかった僕だが、「そうそう、お客に気分よくお金を出させるってのが、いい店、いい買い物ってもんだよ。ではこれを1台いただきましょう…」なんて言葉が何度も出そうになった(笑)。

結局、そのときは30分以上も説明させておきながら、あまりの冷蔵庫ワールドの奥深さに「ちょっと冷蔵庫をナメてました。ちゃんと勉強して出直してきます」と即決はしなかった(申しワケありませんっ!)。ただ、どうせ冷蔵庫にお金を出すのなら、他店より多少高かろうとも、この人から買いたいと思ってしまったのも事実である(まぁ、この店は値段に関しても最安値らしいのだが…)。

しかし不思議なのは、なぜあそこまで「冷蔵庫」に愛を持って語れるのか?ということだ。「誰かに何かを勧める。楽しい世界を提案する」ということに関しては僕らの仕事も同じだ。でも、僕らの場合、もともと趣味のバイクを仕事にしているわけだから好きなのは当たり前。バイクの話をすればついつい熱が入ってしまうし、新車が出れば自然と興味が持てるからそれなりの知識もつく。だけど、彼らは多分そうではないハズなのである。冷蔵庫フェチという趣味はないだろうし(きっと…)、ボーナス商戦で新型が登場するたびに物欲がうずき、「食後にソファーでくつろぎながら冷蔵庫鑑賞するのが至福の時間なんですよ〜、とくにこの斜め後ろから見たときのスタイリングが…」なんて人も、おそらくいないだろう。なのに膨大な知識を元に熱弁をふるい、聞く者をその世界へと引き込んでしまう。もちろんプロの店員さんだからね。新製品説明会やプレゼンテーション講習は受けてもいるだろう。でも、根底にあるのはきっと「気持ちよくお客さんに買い物してもらおう!」というプロ意識だと思うのだ。そんな店員さんの熱気に当てられ「負けてらんねぇな…」とエリを正したしだい。精進せねばっ!

やたぐわぁ

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やたぐわぁ

本名/谷田貝 洋暁。「なるようになるさ」と万事、右から左へと受け流し、悠々自適、お気楽な人生を願うも、世の中はそう甘くない。実際は来る者は拒めず、去る者は追えずの消極的野心家。何事にも楽しみを見いだせるのがウリ(長所なのか? コレ)だが、そのわりに慌てていることが多い。自分自身が怒ることに一番嫌悪感を感じ、人生の大半を笑って過ごすことに成功している、迷える本誌編集長の44歳。

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