いつかどこかで!

バイクに乗って走っていると、たまにとんでもない出会いをすることがある。数日前に言葉を交わしたライダーとまったく別の場所で出会ったり、北海道で知り合ったらライダーに数年後、3,000km近く離れた南の島で再会したり…。つい先日もそんな不思議なめぐり合わせが起こった。

今月の9日。東北地方が未曾有の大雨に見舞われたその当日、僕はその渦中の盛岡市内に姉妹誌『風まかせ』のツーリング取材で訪れていた。取材そのものは運よく本編のロケはおおかた終わり、盛岡市内での室内取材だけが残っていただけなので雨の影響はそれほどなかったのだが、帰ろうにも東北自動車道が雨で通行止となってしまった。

「まぁ、雨もやんだことだし、通行止区間を下道で迂回して行くべ」と、東京目指して走り出したのだが、とにかく行く道、行く道、冠水してしまって迂回させられる。ようやく南進できそうな県道を見付けたのだが、それにしたっていくつもの茶色い水たまりを越え、何度となく川渡りをすることになった。

出会いはそんな状況で起こった。のろのろと進む車窓を眺めていると、ライダーが前からやってきた。「よく、こんな天気で走るねぇ。しかもこの先は冠水地帯だよ…?」。なんて注視していたのだが、どうも見たことがあるシルエットなのだ。

「ン? カソリさんだっ!」
カソリさんとは賀曽利 隆さんのことで、何十年前の暗黒大陸と呼ばれたころのアフリカをひとりでバイクで縦断したり、日本人ライダーとして初めてパリ・ダカールラリーに出場したりした人だ。『風まかせ』『Under400』に登場していただいているうちに大ファンになってしまったのだが、バイク雑誌やイベントで見かけたことがある人も多いのではないだろうか?

一瞬の出来事。ハッキリと確認できた訳ではなかったのだが、いつも賀曽利さんと一緒に仕事している武田カメラマンが叫んだのもほぼ同時だったから、まず本人とみて間違いない。これまで「いやぁ、この前賀曽利さんをこの前○○で見かけちゃってさぁ〜」なんて目撃談を全国各地で聞かされてはいた。それだけ賀曽利さんが日本各地をたくさん走り回っているという証拠なのだろうだが、まさか自分にもそんな証人になるとはビックリである。僕にとっては黄色い新幹線を見るよりうれしい出来事だ。

もちろん、賀曽利さんの方はクルマで走る僕らに気付くわけもないから、その場はそれだけで終わった。あとで本人と連絡をとってみると、「青いグラストラッカービッグボーイに、青い雨カッパ。あの日、あのとき走っていたのは、わたくしカソリに間違いございません! いやぁ、すごい偶然ですね」とは本人談。

犬も歩けば棒に当たるとは言うけど、旅していると、本当にいろんなことが起こるもの。僕は運命とか不確かなものは信じない方だけれど、旅では単なる偶然という言葉で片付けるにはおかしな出会いが時として起こることは知っている。そのたびに「人間、どんな出合いが、どんな人間関係につながるかもわからない。一期一会を大事にしなければ」と思うしだい。いやぁ、やっぱり旅はおもしろい。

やたぐわぁ

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やたぐわぁ

本名/谷田貝 洋暁。「なるようになるさ」と万事、右から左へと受け流し、悠々自適、お気楽な人生を願うも、世の中はそう甘くない。実際は来る者は拒めず、去る者は追えずの消極的野心家。何事にも楽しみを見いだせるのがウリ(長所なのか? コレ)だが、そのわりに慌てていることが多い。自分自身が怒ることに一番嫌悪感を感じ、人生の大半を笑って過ごすことに成功している、迷える本誌編集長の44歳。

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