登場前からバイクのハイブリッド補助は打ち切り?

なぜか歯車が噛み合わない次世代バイクと補助金制度

9月14日、ついにホンダがPCXハイブリッドを市場投入する。国内メーカーが本気の次世代バイクを送り出す日を、1日千秋の思いで待ち焦がれた甲斐があった…、と感慨に浸りたいところだが、その出鼻をくじく不穏な噂を耳にした。次世代バイクに対する補助金制度は、この世の中に存在しない、という驚愕の事実が!

ガソリン車との価格差を埋めるCEV補助金が使えたら!

世の中は地球環境に少しでも優しいクルマが増えることを目指している。EV(電気)もHV(ハイブリッド)もFCV(燃料電池車)もガソリン車と比較すると割高だが、世界中が自国での普及を目指している。日本では、経済産業省がこれらの車両をCEV(クリーンエネルギー自動車)と呼び、ユーザーに直接、補助金を交付。エコカー減税と共に強力なけん引役となっている。とくに今年度は東京都で次世代自動車をさらに普及させるため独自の補助金制度が打ち出された。経産省の補助金に上乗せして支給する仕組みだ。試乗会などではPCXハイブリッドは割高だという声も耳にするが、ダブル補助金でガソリン車との価格差が縮まれば、PCXハイブリッドの伸びのある加速感やプレミアムな装備が、一気に身近になる。「それでもハイブリッドを選ばないのですか?」という状況になれば、次世代バイクも続々登場する期待が持てそうだ。

 

ただし、都道府県の補助金は、国が決めた対象車種に二階建てで実施するので、まずは経産省の考え方を知らなければならない。そこでまず、自動車課をたずねた。市販を考えれば、前月には何らかの形が出ているはずとの思いつきだ。もしかしたら補助金交付額も決まっているかもしれない。しかし、経産省の回答は、思いもしない方向に流れた。

 

「ハイブリッドは補助金の対象にはなりません」
―えっ! これから販売されるのに?

 

「ハイブリッドは、すでに普及目標に達しているので、補助金の対象ではないんですよ」
―それは四輪車の話ですよね。ハイブリッドだけでなく、ピュアEVも出てくるのに、ですか…。

 

「バイクのハイブリッドが登場したからといって、対象になるかどうかは今のところはなんとも言えません。今後、検討させていただきたいと思います」

 

国内メーカーがようやく重い腰を上げ、ハイブリッドを投入し、ユーザーからすれば、これでやっと次世代バイクが現実の選択肢に入ってきたというのに、経産省はハイブリッドの普及は、もう必要なしと門前払いされる。これではPCXエレクトリックの先も思いやられるというものだ。

四輪ではテスラも対象なのにBMWはなぜ断念したか

経産省自動車課は「バイクが補助金対象となるためには、型式認定をとっていること」が必須条件だという。

 

型式認定は同じモデルを大量生産しても、同じ品質を保っていることを保証するための国土交通省の制度だが、車検のない排気量250㏄以下のバイクは実質上、認定を受けても何のメリットもない。国内メーカーは50㏄バイクでも型式を取得している場合もあるが、この取得費用は結局、車両価格に跳ね返ってくる。車検制度がないバイクが型式を取得してもユーザーには何のメリットもない。それに型式認定は国交省の制度だ。経産省は採用した理由を「安全性を担保するため」(前述・自動車課)というのだが、型式取得をしていない車両の安全に問題があると思うなら、経産省ではなく国交省が制度をあらためるべきだ。補助金制度の趣旨とはまったく関係のない安全性を、経産省はなぜバイク補助金に持ち込んだのか。

 

当初、同局自動車課は「CEV補助金はガソリン車との差額の一部を補助して、CEVを普及させるのが目的。その枠組みは四輪車も二輪車もかわらない」と話していた。補助金対象となるバイクが少ないのは、商品が市場投入されていないからと思わせ、商品が出そろえば普及も進むだろうと思い込ませるような説明だったが、補助金制度の歴史を振り返ると、決して制度はバイクを受け入れてはいない。

 

その象徴的な例が、250㏄クラスのEVとして想定外の支持を集めたBMWモトラッドの「Cエボリューション」だ。CエボリューションはピュアEVだ。PCXハイブリッドはハイブリッドゆえに補助金対象ではないと経産省は説明したが、EVだって結論は同じだった。

 

一方、四輪車の補助金対象は多彩だ。次世代自動車振興センターのホームページを見ると、BMWもフォルクスワーゲンも、さらに1000万円を超えるテスラも、国産車と並んで等しくCEV補助金の対象車だ。決して輸入車だから締め出されたわけではない。では、なぜヤマハのEビーノやEC‐03、スズキのeレッツが、今も補助金対象として掲載されているのに、Cエボは門前払いされたのか。

 

国内市場100万台を後押ししているはずの経産省が、次世代バイク普及に背を向ける理由を、次号で明らかにする。

 

中島みなみ

written by

中島みなみ

63年、愛知県出身。記者。新聞、週刊誌、総合月刊誌記者を経て独立。世の中に起きる割り切れない出来事と、世の中を動かそうとする主張を伺い記事に反映させていきたいと思っています。

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