YAMAHA TY-E

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TY-Eのコト、電動トライアルのコト

エンジン車と同じような楽しさとパワーを持つ電動車を作りたい

TY-E 開発者 豊田剛士さんにインタビュー
TY-E 開発者 豊田剛士さん

 

ヤマハはなんとおもしろい企業なのか。大企業でありながら、たった一人の従業員のアイデアが、本人も驚くほどまたたくまに大きなプロジェクトになり、マシンが生まれ、はては世界選手権でチャンピオンを目指す。そんな出来事が起こってしまうことがあるのだ。そして、そうやって誕生したのが電動トライアルマシン・TY‐Eである。ヤマハの研究部門には通称5%ルールといわれる、業務の5%を使って自由な研究活動ができる制度があるという。それを利用して、豊田剛士さんは電動トライアルマシンの研究をスタートさせた。

 

「電動のトライアルマシンを作りたいと思ったのは、自分が5年くらい前からトライアルを始めていたのが理由の一つです。また、電動というとつまらないだとか、エンジン車に比べると出力が小さいだとか、そういう風に言われている部分をどうにかできないかなと思ったんです。エンジン車と同じように楽しく、かつエンジン車と勝負ができるぐらいのパワーを持つ。そんなヤマハらしい電動のバイクが作れたらいいなと…。ただ、当初はここまでのプロジェクトになるなんて考えていませんでした」

 

ちなみに5%ルールで研究されるものすべてがこうしてプロジェクト化されるわけではなく、むしろ日の目を見ないことの方が多いのだという。だから今回の例は異例ともいえるのかもしれない。豊田さんはプロジェクトのスタートが決まると、EVの部署へと異動。本格的に電動トライアルマシンの開発に着手し始めた。

 

「トライアルをやっていることもあり、もともとこういうマシンを作りたいという構想がありました。だから最初の時点で、電動、モノコックフレームにしたいということ、メカニカルクラッチとフライホイールは採用したいと考えていたんです。モノコックにしたいと思ったのは各コンポーネントレイアウトの自由度を高めること。そしてバッテリーやハーネスの保護もでき、さらにフレーム剛性の点でメリットがあると思ったからです。メカニカルクラッチとフライホイールはトライアルをやっている人からしたら、欲しいものだと思います。ただ当初は「EVのよさを消してしまうのでは?」という意見もあったんです。ですが結果的にフライホイールの採用は、いろいろな面でいい効果をもたらしてくれました。さらに全日本トライアル選手権のIAクラスで勝負ができるレベルのマシンにしたいなと考えていました。開発にあたってはカーボンを使ったりなど、いろいろとチャレンジもありましたけれど、想像以上にいろいろな部分がうまくかみ合って、でき上がり当初から理想に近い、選手権にも出れるかもしれないというレベルのマシンに仕上がったんです」

 

そして2018年の頭には世界選手権に参戦することが決まり、2018年に行なわれたトライアル世界選手権Eクラスで世界ランキング2位を獲得したのである。

 

「実戦で走らせると、やはりバッテリーの重さをもっと軽くしたいなど、いろいろと新たな課題が出てきましたし、他メーカーのマシンを見る機会もあり、こういうアプローチの仕方もあるのかと勉強にもなりました。TY‐Eに関して、この先のことはまだ決まっていませんが、もし来年も世界選手権に参戦するのなら、今回の課題をクリアにし、さらに進化させたいなとは思います」

 

TY‐Eをはじめ、電動トライアルバイクはいくつかのメーカーがリリースしている。現在はまだ出力特性の面など、エンジン車に比べると劣る部分がある電動トライアルバイクだが、進化の度合いは速く、今後、遅かれ早かれ、電動車がエンジン車を上回る時代がやってくるだろうと豊田さんはいう。

 

「今は世界選手権でいうとトライアル2(上から2番目)クラスのセクションを攻略できるぐらいまで性能が上がってきていると思います。そして電動車がエンジン車を上回る日もそう遠くないと思います。たとえば制御性一つとってみても、エンジンとモーターでは2桁ぐらい制御性が違うといいますから、たとえばすべりやすい路面で初心者がラフにスロットルを開けても必ずグリップするといったり、エンストもないですし、レベルや好みに合わせてきめ細やかに出力特性も変えられるので、競技するうえでのメリットも多いんです。だから進化していけば、たとえばトライアル選手権でいうと、一番上の難易度がとても高いGPクラスで、エンジン車が走破できなかったところを電動車なら攻略できるということも出てくると思います」

 

そんな電動の進化は楽しみだ。そしてTY‐Eで世界選手権に出場するという一つの目標を達成し、このプロジェクトは一区切りとなったが、トライアルファンとしてはさらに進化したTY‐Eを引っ提げ、ぜひ来年も世界選手権にその姿を見せ、今年の雪辱を晴らしてもらいたいと願う。

CONTACT

問い合わせ先
ヤマハ発動機カスタマーコミュニケーションセンター
電話番号
0120-090-819
URL
https://www.yamaha-motor.co.jp/mc/

※記事の内容はNo.198(2018年9月22日)発売当時のものになります

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