カメさん大脱走!

庭がいつもよりひっそりとしている気がする。あれ…と胸騒ぎがして、池に近づいて手をたたいてみる。魚たちは時折水面に出てくるが、カメが出てこない。いつもだと人の気配を感じたら顔をのぞかせてこちらに近寄ってくるのだが、どうしたのだろう? 池の中を手や棒で探ってみるが、それらしき感触がない。庭の茂みを見るもどこにも見当たらない。しばらく考えているうち、「あ!」と、思い出した。つい先日、柵にガタがきていたのでしきりを替えたのだった。でもとりあえずの応急処置だったので、うっかり、カメが通れないかどうか確認するのを忘れてしまった。案の定、新しいしきりには強く進めば通り抜けられる隙間があった。「まずいな…逃げたかも」慌てて近所を探し回ったがどこにもいない。気づいたのが今日だが、もしかするともう少し前からいないのかもしれない。

どうしよう…と生け垣や境目の隙間などのぞきこんでいると、犬を連れて通りかかった人が声をかけてきた。「ワンちゃんでも逃げたんですか?」「あ、いえ、その…カメでして…」「はっ…! もしかして、けっこう大きなカメですか!?」「はい、えーと、湯たんぽくらいの、背中に三本筋っていうんですか、山になっている、クサガメっていうカメで…」「はら~っ! 見ました、それ!」「きゃ~っ!! ど、どのへんでしょうか!?」突然の目撃情報に興奮して、すぐにその昨日の夕方に見かけたという畑に急行。しかしもちろん、時すでに遅し…。けっこうなスピードで、草をかき分けかき分けして東から西へと横切っていたという情報を手がかりに、周囲をくまなく探しまわったが気配がない。近くには小さな川が流れており、畑の排水溝からうまく通って行くと運よく無傷で川にも出られることがわかり、川の中もずーっと沿って見てみたが、それらしい姿はなかった。一応、地域の保健所にも迷いガメがいなかったか問い合わせ、半分あきらめ気分になりつつも、時間をあけてちょくちょく見まわってみた。その間、近所の人に聞かれ答えているうちに、とうとう「いた! 川を泳いでいた!」こっちこっち!と言われるままに走って向かうと、そこには川の中を悠々と泳いでいるうちのカメの姿が! あ~良かった! 幸いにも無傷である。いやはや、めでたしめでたしで家に連れて帰った。

…と思ったら、これが一件落着ではなかった。以前コラムで、金魚の立場や性格が経験値によって一時変化したという内容のものを書いたが、まさにそれが今、池で起こってしまった。脱走前は比較的温厚で、どちらかといえば同居していたオイカワや金魚にエサも奪われ、遠慮がちに生活していたカメだったが、脱走劇から一夜明けた池の水面には…無惨なオイカワたちの姿が。おそらく全滅と思われる。よほど空腹だったのか、野生が目覚めたのか、また違う意味で庭がひっそりと静まり返っている。静寂というより、緊迫という感じである。オイカワにまじって金魚も水面で気絶していたのだが、その後なんとか持ち直したようで、すべて生き残ってはいるものの、警戒してエサにも寄ってこない。参ったな…もとはといえば自分の不注意による結果であると反省。私は少し本能というものを甘く考えていたようだ。

その後、数週間がたち、徐々にまた温厚な性格に戻ってきたカメ。でもまだちょっとだけ顔がワイルドな気も…あの数日間、さぞかし大冒険だったんだろうな…。ああ、でも、生きててよかった(汗)。

チャンカメ

written by

チャンカメ

タンスタ創刊号の〆切間際に入社した古株女子だが貫禄はまるでナシ。かわいい=へんなものについつい手が伸び、デスク周りは癒やし(?)小物だらけ、少々アク抜きの必要な40代。イラスト担当。愛車は現在Z250。乗るたびに ”最近のバイクはすごいな〜” と可愛さ倍増中☆

このコラムにあなたのコメントをどうぞ

この記事が気に入ったら
いいね!とフォローしよう

タンデムスタイルの最新の情報をお届けします